相続放棄とは?相続放棄の手続の流れと注意点は?

1 はじめに

親が亡くなったが、多額の借金を残して死亡したので、借金を引き継ぎたくない

交流のなかった親戚が死亡したことも知らなかったが、突然、金融機関から、死亡した親戚の債務を支払うように請求書が届いた

といった場合、どのようにしたら良いのでしょうか。

民法は、相続放棄について、定めています。

相続放棄をすると、はじめから相続人でなかったことになりますので、財産、債務双方について、相続しません。

なお、個別の事案については、弁護士までご相談ください。

2 他の制度との違い

(1)単純承認

単純承認をすると、相続人は、無限に被相続人の権利義務を承継します。

(2)限定承認

限定承認は、被相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を受け継ぎます。

限定承認をするためには、法律が定めた期間内に、家庭裁判所に限定承認の手続をとる必要があります。

また、限定承認をするためには、相続人が複数いる場合には、共同相続人の全員が共同して行う必要があります。

(3)相続人が、当該相続人が遺産を取得しない内容の遺産分割協議書に署名、押印したとき

相続人の一人の方が、その方が遺産を取得しない内容の遺産分割協議書に署名、押印をしたときには、当該相続人は、財産は、取得できませんが、被相続人の借金などの債務は相続の対象になりますので、注意が必要です。

3 相続放棄の期間

民法915条1項本文は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に」相続放棄をしなければならない旨規定しています。

最高裁判所の裁判例では、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには」・・・「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である」旨判示したものがあります。

したがって、仮に、被相続人が死亡したこと、自己が相続人であることを認識してから、3か月を経過した後であっても、例えば、債権者からの被相続人の債務に関する催告書を受け取って、はじめて負債があることを知った場合などには、お早めに弁護士にご相談ください。

4 相続放棄の手続の流れ

(1)申し立て

管轄がある家庭裁判所に相続放棄の申述書、添付書類(被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本、被相続人の住民票除票、申述人の戸籍謄本等)、収入印紙、切手等を添えて、申立をします。

(2)照会、回答

家庭裁判所から、照会文書が届く場合があります。

家庭裁判所から照会文書が届いた場合には、回答をする必要があります。

(3)結果

相続放棄の申述が受理されると、申述人は、受理通知書を受け取ります。

家庭裁判所に受理証明書の発行を申請すると、受理証明書が交付されます。

5 相続放棄をする場合の注意点

(1)法律が定めた期間内に申立をする

民法は、相続放棄をすることができる期間を規定しています。

法律が定めた期間内に申立をする必要があります。

(2)法定単純承認

民法は、一定の行為について、単純承認をしたものとみなす旨規定しています。

単純承認をしたものとみなされないように注意が必要です。

具体的には、法廷単純承認について規定している民法第921条1号から3号は、

①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき

ただし、保存行為及び民法第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りではありません

②相続人が民法第915条1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき

③相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部又は一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録に記載しなかったとき

ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りではありません

旨規定しています。

(3)相続放棄をする可能性がある場合には、お早めに弁護士に注意点を確認されてはいかがでしょうか。

6 相続放棄と生命保険金

相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができるのでしょうか。

契約者、被保険者がいずれも被相続人であり、受取人が相続放棄をする方と指定されている生命保険金は、通常、相続人固有の財産と考えられます。

このような場合、相続放棄の手続をしても受け取ることができることが原則であると考えられます。

生命保険会社に相続放棄をしても受け取ることができる契約内容か否か、確認をしながら手続をすすめたほうが良いと思います。

7 相続放棄と遺族年金

相続放棄の手続をしても、遺族年金の受給権は失われないと考えられます。

8 まとめ

相続放棄について、分からないことがありましたら、弁護士までご相談ください。

また、債権者から、亡くなった方の債務について、書面が届きましたら、お早めに弁護士までご相談ください。