自筆証書遺言に真実遺言が成立した日と相違する日付が記載されているケースで自筆証書遺言を無効としなかった事例

1 はじめに

最高裁判所は、令和3年1月18日、自筆証書遺言に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されている事案において、直ちに自筆証書遺言が無効となるものではないと判断しました。

2 事案の概要

この事案は、入院中に自筆証書遺言の全文、日付、氏名を自書し、退院して9日後に押印をしたという事案です。自筆証書遺言を自書した日は、4月13日で、自筆証書遺言に記載されている日付は4月13日であり、押印した日は、同じ年の5月10日です。

3 問題の所在

まず、この自筆証書遺言は、いつ成立したのでしょうか。

自筆証書遺言では、民法上、押印が必要です。

そうすると、5月10日に民法の自筆証書遺言の要件を満たすこととなったので、5月10日になると考えられます。

一方、自筆証書遺言の日付は、4月13日です。

その結果、自筆証書遺言に記載されている日付と真実遺言が成立した日の日付が異なることになります。

自筆証書によって遺言をするには、遺言に真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと考えられます。

それでは、遺言に真実遺言が成立した日が記載されていない本件自筆証書遺言は、無効と判断されてしまうのでしょうか。

原審(高等裁判所)では、遺言は、無効と判断されています。

しかし、最高裁判所は、原判決を破棄し、高等裁判所に差し戻しました。

4 最高裁判所の判断

最高裁判所は、「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ」「前記事実関係の下においては、本件遺言が成立した日は、押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり、本件遺言書には、同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず、これと相違する日付が記載されていることになる。

しかしながら、民法968条1項が、日筒証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。

したがって、Aが、入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」旨判示しました。

5 まとめ

最高裁判所は、自筆証書遺言に真実遺言が成立した日と相違する日付が記載されているケースを一般的に有効と判断したものではありません。

あくまで、この事案において、無効となるものではないと判断したものに過ぎません。

遺言書を作成する場合には、あらかじめ弁護士にご相談をされることをおすすめいたします。

当事務所では、公正証書遺言をおすすめしていますが、事案によっては、自筆証書遺言についても助言しています。