相続と預金の使い込み(請求をする側から)②

相続と預金の使い込み(請求をする側から(その2))

弁護士:前回のコラムに続いて、事例を仮定して考えてみましょう。
    Aさんは、夫が先に死亡し、長男のBさん、Bさんの妻Cさんと一緒に生活していました。
    Aさんが死亡し、法定相続人は、BさんとAさんの長女Dさんです。
    Dさんは、Aさんの生前、Aさんから2000万円の預金があると聞いていましたが、実際にAさんの預金を調べてみると、Aさんの預金は、ほとんどありませんでした。その結果、Aさんの遺産は、ほとんどありません。
 
弁護士:そこで、DさんがAさんの預金の取引履歴を取り寄せたところ、Aさんの死亡する1年前から、合計2000万円の預金が引き出されていたとします。
 
弁護士:この2000万円をBさんが取得したと仮定します。
 
事務員:仮に、Bさんが、Aさんに無断で引き出した場合には、Dさんの側としては、不当利得返還請求(ふとうりとくへんかんせいきゅう)または不法行為(ふほうこうい)に基づく損害賠償請求(そんがいばいしょうせいきゅう)という法律構成で請求をすることが多いのですね。
 
弁護士:はい。
 
事務員:裁判になった場合、Bさんは、どのように対応するのですか。
 
弁護士:Bさんの側からすると、例えば、贈与を受けたと主張する場合があります
 
事務員:同居で、親子なので、一般論として、贈与を受ける可能性もあると思います。
 
弁護士:Bさんの側から、贈与を受けた事実について、裏付ける証拠があれば、出すことが通常であると思います。
    贈与契約書とか、贈与税の申告に関する資料などがあれば、提出することが多いと思います。
 
事務員:ところで、Bさんの側から贈与の主張がされる一方、Aさんが認知症だった場合、Dさんとしては、どのような主張が考えられますか。
 
弁護士:例えば、Dさんとしては、Aさんに判断能力がなかったと主張し、贈与が無効であると主張することが考えられます。
 
事務員:Dさんとしては、Aさんに判断能力がなかったことは、どのようにして立証するのですか。
 
弁護士:Aさんの通院していた医療機関の医療記録や、介護保険に関する認定調査票、主治医意見書などの書類が証拠となる可能性もあります。
 
事務員:Aさんの判断能力に問題がなく、贈与の事実について、争うことが難しい場合、Dさんとしては、どのような主張が考えられますか。このケースでは、遺産もほとんどないとのことですし。
 
弁護士:Dさんとしては、遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)の主張をすることが考えられます。
 
事務員:遺留分減殺請求?
 
弁護士:遺留分については、別の機会に説明しますね。
 
事務員:ここまで、Bさんが2000万円を取得したことを前提に話をしてきましたが、2000万円をAさんのために使用したと主張する場合には、どうなりますか。
 
弁護士:Bさんが、Aさんのために使用したと主張する場合、具体的な使途について、説明をすることが多いと思います。また、使途を裏付ける証拠があれば、提出することが多いと思います。
 
事務員:だんだん話が難しくなってきました。
    預金の引き出しに疑義があるときには、弁護士さんに相談したほうがよさそうですね。
 
弁護士:このコラムでとりあげた法律構成や当事者の主張などは、一例ですので、個別の事案によって、主張や証拠は異なります。
    くわしくは、ご相談される弁護士さんとよく打ち合わせてください。