遺産分割調停において、遺産分割の対象となる金融資産

1 はじめに

遺産分割の調停手続、審判の手続において、遺産分割の対象となる金融遺産は、どのようなものがあるのでしょうか。

遺産分割の調停手続、審判手続の対象となる財産は、一般論として、原則として

①被相続人が所有していた財産であること

②被相続人の死亡時において存在していた財産であること

③現在も存在している財産であること

が必要とされています。

例えば、預貯金等の金銭債権については、可分債権として、相続人に法定相続分に応じて帰属することにならないでしょうか。

ここでは、いくつかの金融資産について、上記一般論を満たすことを前提として、当然に遺産分割の対象となるか、検討します。

なお、遺産分割の調停、審判手続において、当然に遺産分割の対象とならない財産であっても、遺産分割の当事者全員が合意することにより、遺産分割の対象とすることができる場合もあります。

2 遺産分割調停において、遺産分割の対象となる金融資産

(1)預金

①通常、遺産分割の対象となると考えられます。

②最高裁判所の裁判例

最高裁判所は、「預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。・・・共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」旨判示したものがあります。

また、この最高裁判所の裁判例の後に、最高裁判所の裁判例として「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」旨判示したものがあります。

(2)個人向け国債

①通常、遺産分割の対象になると考えられます。

②最高裁判所の裁判例において、「個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり、このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば、共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」旨判示したものがあります。

(3)社債

通常、遺産分割の対象となると考えられます。

(4)株式

①通常、遺産分割の対象となると考えられます。

②最高裁判所に裁判例において「株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利(会社法105条項1号)、残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と、株主総会における議決権(同項3号)などの共益権とを有するのであって・・・このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」旨判示したものがあります。

(5)投資信託

①通常、遺産分割の対象になると考えられます。

②最高裁判所の裁判例

最高裁判所は、「・・・投資信託受益権は、委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ、この投資信託受益権は、口数を単位とするものであって、その内容として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された上記投資信託受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」旨判示したものがあります。

(6)現金

①現金については、遺産分割の対象となると考えられます。

もっとも、被相続人名義の貸金庫で保管されているなど、遺産分割時において、実際に存在することが必要です。

②最高裁判所の裁判例

最高裁判所の裁判例では、「相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできないと解するのが相当である」旨判示したものがあります。

(7)不法行為に基づく損害賠償請求権

不法行為に基づく損害賠償請求権は、相続の対象となりますが、可分債権ですので、相続開始と同時に当然に分割され、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とならないと考えられます。

3 まとめ

相続、遺産分割について、分からないことがありましたら、弁護士までご相談ください。